【サルコペニア評価のカットオフ値一覧】主要指標と解釈まとめ

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セラピストの部屋

 サルコペニアは、加齢や疾患に伴う筋力・筋肉量・身体機能の低下を特徴とし、転倒・要介護・死亡リスクの上昇と密接に関係しています。
 そのため、早期のスクリーニングと診断、そして介入効果の判定において、評価指標のカットオフ値を正しく理解することが極めて重要です。

 しかし、学生や若手療法士の中には、「握力や歩行速度、SPPBなどの評価結果をどう読み解き、どの基準でサルコペニアを判断すべきか」に悩む場面も少なくありません。
 さらに、2025年のAWGS改定により、SPPBの位置づけが変更されるなど、最新の診断基準を踏まえた評価の再整理が求められています。

 そこで本記事では、AWGS2025・EWGSOP2などの国際基準に基づき、サルコペニア関連評価のカットオフ値を文献付きで一覧化しました。
 診断・スクリーニング・介入効果判定のすべての場面で活用できるよう、実践的な知識として整理しています。

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カットオフ値とは?

 カットオフ値とは、ある評価指標において「リスクあり/なし」「正常/異常」などを判定するための基準値です。
 臨床現場では、対象者の状態を定量的に把握し、介入の必要性や方針を判断する際の重要な指標となります。

うっしー
うっしー

 カットオフ値は、判断材料として優れた基準値ですが、「絶対的な基準」ではなく「参考値」であることに注意しましょう。

ゆー
ゆー

 疾患・年齢・文化的背景による変動や、評価するときの椅子の高さなど、評価手技のばらつきがあることも念頭に置く必要があります。

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サルコペニアとは?

 サルコペニアは、加齢や疾患に伴って生じる骨格筋量・筋力・身体機能の低下を特徴とする症候群です。
 もともとは加齢性筋肉減少症として提唱されましたが、現在では加齢性に限らず、疾患性・廃用性・栄養性サルコペニアも含む概念として広く用いられています。
 サルコペニアは、転倒・骨折・要介護・入院・死亡などのリスクを高めることから、高齢者医療・介護予防・リハビリテーションの重要な評価対象となっています。

🧪 サルコペニアの分類

  • 一次性サルコペニア:加齢に伴う自然な筋肉減少
  • 二次性サルコペニア:疾患(がん・心不全・CKDなど)、活動低下、栄養不良に起因
  • 急性/慢性サルコペニア:発症期間による分類(3か月未満/以上)

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サルコペニア評価とカットオフ値

 サルコペニアの代表的な評価には「AWGS2025」「EWGSOP2」があります。「AWGS2025」と「EWGSOP2」には、地域・対象年齢・診断構成・身体機能の扱い方に明確な差があります。

サルコペニア評価「AWGS2025」と「EWGSOP2」の違い

 「AWGS2025」と「EWGSOP2」の違いをまとめると、以下のようになります。

  項 目  AWGS2025
(Asian Working Group for Sarcopenia)
EWGSOP2
(European Working Group on Sarcopenia in Older People)
対象年齢50歳以上
(中年層含む)
65歳以上が中心
診断構成要素筋力+筋肉量
(身体機能は除外)
筋力+筋肉量 ± 身体機能
身体機能の扱いアウトカム評価
(重症度・介入効果判定)
診断構成要素の一部
(重症度分類に使用)
握力
カットオフ値
男性28kg/女性18kg
(65歳以上)
男性34kg/女性20kg
(50–64歳)
男性27kg/女性16kg
筋肉量
(ASMI)
男性7.0kg/m²
女性5.7kg/m²
男性7.0kg/m²
女性5.5kg/m²
(BIA)
歩行速度6m歩行
1.0m/s未満
(スクリーニング)
4m歩行
0.8m/s未満
(診断構成要素)
SPPBの位置づけ2025~ 診断から除外
アウトカム指標として使用
診断構成要素の一部
(重症度分類に使用)
重症度分類「重度サルコペニア」
の用語は廃止
「重度サルコペニア」あり
(3要素すべて低下)
スクリーニング法指輪っかテスト
SARC-F
SARC-CalF
下腿周囲長
SARC-F
歩行速度
握力 など

 AWGS2025「筋肉中心モデル」へ移行し、診断の簡素化と中年層への予防的介入を重視しています。
 EWGSOP2「包括的モデル」であり、身体機能も診断構成要素として重視しています。

 SPPBの扱いについては、AWGS2025では診断から除外され、EWGSOPでは診断・重症度分類に活用されています。

📚 参考文献

  • AWGS2025改定通知(日本サルコペニア・フレイル学会)
  • Cruz-Jentoft et al. Age and Ageing, 2019(EWGSOP2原典)
  • InBody Japan|AWGS2025解説
  • PT-OT-ST.NET|AWGS2025速報記事

サルコペニア評価「AWGS2025」のカットオフ値

  項 目    内 容  カットオフ値(男性/女性)
筋力握力28kg未満/18kg未満
筋肉量ASMI7.0kg/㎡未満/5.7kg/㎡未満
身体機能歩行速度(6m)1.0m/s未満
スクリーニング補助指輪っかテスト指が閉じる
=筋量低下の可能性

※ AWGS2025では、SPPBは診断構成要素から除外され、「介入効果判定・重症度分類のアウトカム指標」として位置づけられました。

📚 主な診断基準とガイドライン

  • AWGS2025(Asian Working Group for Sarcopenia)
  • EWGSOP2(European Working Group on Sarcopenia in Older People)
  • 日本サルコペニア・フレイル学会ガイドライン(JASFA)
  • 厚生労働省:高齢者の身体機能評価指針(地域包括ケア・介護予防)

アウトカム評価となる「SPPB」のカットオフ値

 AWGS2019まで、SPPB(Short Physical Performance Battery)は歩行速度・立位保持・椅子立ち上がりの3項目からなる身体機能評価として、サルコペニア診断の一部に含まれていました。
 しかし、2025年のAWGS診断基準改定(AWGS2025)により、SPPBは「診断構成要素」から除外され、今後は「アウトカム評価指標」として位置づけられる方向に変更されました。
 ただし、介入効果判定や重症度分類の指標としては引き続き有用であり、研究・生活期支援では活用が継続される見込みです。

 また、診療報酬上の直接的な除外は現時点では明記されていませんが、診断基準からの外れたことにより、評価の役割が変化する可能性があります。

SPPBのカットオフ値

カットオフ値  解 釈  
9点以下転倒、ADL低下、フレイルの可能性あり
6点以下ADL低下・転倒リスクが高い

📚 参考文献

  • 宮﨑ら(2021):サルコペニア高齢入院患者におけるSPPBの推移と有用性
  • 石山(2020):高齢心疾患患者におけるSPPBと再入院リスクの関係

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まとめ

 サルコペニアは、加齢や疾患に伴う筋力・筋肉量・身体機能の低下を特徴とし、転倒・要介護・死亡リスクの上昇と密接に関係しています。
 そのため、早期のスクリーニング・正確な診断・介入効果の判定において、評価指標のカットオフ値を正しく理解し、使い分けることが極めて重要です。

 本記事では、AWGS2025・EWGSOP2などの国際基準に基づき、握力・ASMI・歩行速度・SPPBなどの主要指標のカットオフ値を文献付きで整理しました。
 特にAWGS2025では、診断構成要素が「筋力+筋肉量」に再定義され、SPPBは診断から除外される一方で、アウトカム評価としての重要性が強調されています。
 また、SPPBの9点以下・6点以下というカットオフ値は、転倒・ADL低下・再入院リスクの予測に有用であり、生活期リハや介護予防でも活用が期待されます。
 今後は、診断・スクリーニング・介入評価の3層構造を意識した評価設計が求められます。

 本記事が、現場での判断や教育・制度対応に役立つ実践的な知識として活用されると幸いです。

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