【ジョブ型雇用でどう変わる?】理学療法士の働き方 メリット/デメリット

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皆さんは「ジョブ型雇用」という言葉を聞いた事がありますか?

日本では多くの企業が「メンバーシップ型雇用」という雇用形態を採用しています。しかし、日本は”少子化による人手不足””同一労働・同一賃金問題”など大きな問題を抱えており、経団連はその対応策としてジョブ型雇用を推進しています。すでに一部の大手企業では、ジョブ型雇用が広まってきています。

「ジョブ型雇用」は医療・介護業界ではあまり聞き慣れない言葉ですが、今後の日本の雇用形態の変化に対応していくために内容を理解し、メリットとデメリットをしっかりとおさえておきましょう。

メンバーシップ型雇用とは

メンバーシップ型雇用とは、「年功序列」「終身雇用」「部署異動」「各種手当て支給」といったこれまでの日本で一般的とされる雇用形態のことをいいます。

年功序列で昇進し、極論として働かなくても毎月決められた給料が支給されます。これにより、あまり仕事をしなくても高い給料をもらっている、いわゆる「働かないおじさん」が出現する原因にもなっています。

また、法に抵触するような悪事を働かなければ60歳(会社規程や社員の希望によりそれ以上)まで雇用(終身雇用)してくれます。

私たち医療従事者を含め、日本の雇用形態のほとんどがこれにあたります。

ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは、メンバーシップ型雇用の「年功序列」「終身雇用」「手当の支給」などがなく、仕事の内容を明確に定めて成果に応じて報酬を支払う雇用形態です。

例として、理学療法士の業務で考えてみましょう。

以下の様な雇用契約を締結しました。

  • 仕事内容:脳血管疾患のリハビリを1人3単位、6名に行う
  • 報酬:1万円

一見いつも行っている業務ですが、ジョブ型雇用に当てはめると以下のような事がいえます。

  • 「脳血管疾患」のリハビリのみ行う。
  • 必ず1人3単位、6名にリハビリを行わなければならない。
  • 上記を満たさない場合、減給や降格、解雇となる可能性がある。

(患者さんの状態により3単位実施できない可能性がありますが、ここではあくまで”例”ですので深く考えないで下さい。)

ジョブ型雇用において重要なのは、契約した仕事内容を遂行できなければ「報酬が支払われない」または「減額される」という点です。

つまり、契約した仕事の成果が伴わなければ契約した報酬は支払われないというわけです。働いた分だけ報酬がもらえるため、メンバーシップ型雇用で出現する”働かないおじさん”の給与は激減する可能性が高いです。

逆に言えば、自分のスキル次第より高い報酬で契約できる可能性があるということです。

ジョブ型雇用では、「あの人は俺(私)より仕事してないのに、給料が高いなんて許せない!」という方には”追い風に、「働かないおじさん」には向かい風”になりそうですね。

ジョブ型雇用のメリット

それでは、日本の雇用形態がメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へと変わっていった時、私たち理学療法士にとってどのようなメリットがあるのか考察していきます。

仕事の選択が可能

メンバーシップ型雇用では、”総合職採用”が取られており、会社都合の部署異動・職種変更があります。

ジョブ型雇用では、”専門職採用”が取られており、会社都合の部署異動・職種変更がありません。

(理学療法士は”専門職”として認識されていますが、ここで言う”専門職採用”は会社都合で仕事内容の変更がないという事であり、言葉の意味は異なります。)

理学療法業務におけるジョブ型雇用の専門職採用とは、

  • 脳血管疾患のリハビリ
  • 整形外科疾患のリハビリ
  • 回復期病棟の入院患者のリハビリ
  • 介護老人保健施設でのリハビリ

など、会社都合の部署異動が伴わない契約時の仕事内容に限定して行うものになります。

メンバーシップ型雇用では、欠員部署への異動があったり、興味・得意分野に限定してリハビリを行うことは不可能ですが、ジョブ型雇用では興味・得意分野に限定してリハビリを行う事ができるようになります。

したがって、”認定理学療法士”の資格を持っている人は、その分野の雇用契約を締結しやすくなると思われます。

「ジョブ型雇用のデメリット」で触れますが、認定理学療法士は働き方次第でデメリットにもなり得る可能性があります。)

理学療法士の視点から「仕事の選択が可能」というメリットを考えたとき、興味のある・得意な分野に専念してリハビリができる可能性が極めて高いと言えます。

やった分だけ給料も増える

メンバーシップ型雇用は、年功序列・終身雇用がベースにあり、そんなに頑張らなくても勤続年数と共に昇級し、給与額が増加していきます。これが、いわゆる”働かないおじさん”の出現につながっています。

ジョブ型雇用は、仕事で成果を出せばその分だけ給料も増えます。

理学療法業務において、”やった分”とはリハビリの取得単位に相当しますが、これには上限(24単位/日、108単位/週)があり、一概にやればいいと言うわけではありません。

取得単位を優先する事でリハビリの本質を見失い、”過剰診療”や”質の低下”を生じさせてしまう可能性があるためです。

医療業界の収益自体が診療報酬に左右されてしまう事から、これについては一般企業に習う事は難しいでしょう。

残念ながら”認定理学療法士”の資格も、それによる診療報酬の上乗せがありません。

したがって、”認定理学療法士”の資格を持つ事が直接給料の上昇に寄与することはないと考えられます。

理学療法士の給料上昇には、診療報酬の上方修正が必須ですが、下方修正が続いている事を考えるとかなり厳しいと言わざるを得ません。

理学療法士が給料を上げるには、

  • 時間を犠牲に単位を取得し、報酬を上げる
  • 理学療法士+αのスキルを身につけ自分の市場価値を高める
  • その上で副業自由診療の道を検討

が必要でしょう。

理学療法士の視点から「やった分だけ給料も増える」というメリットを考えたとき、時間を対価にして単位をあげるしか方法がないことから、生産性を上げるという側面でのメリットはほとんどないと言わざるを得ません。

在宅勤務と好相性

ジョブ型雇用は、仕事の成果が伴えば働く場所や時間に左右されないというメリットがあります。

上司や周りの目を気にしないで働けるのは、ストレス社会を生きる私達にとって良い事ですね。

しかし、理学療法業務において在宅勤務はまず無理ですので、この恩恵はなさそうです。

在宅勤務といえるのか疑問はありますが、実現できるとしたら自宅を職場とする自由診療での開業スタイルくらいですね。

忠誠よりもスキルで評価

まず、それぞれの雇用型における「会社との関係性」をイメージしてみましょう。

メンバーシップ型雇用

会社は「社員の親のように育て守ってくれる」かわりに、社員は「会社の言うことを聞いて」働く

ジョブ型雇用

大人同士の契約(約束)に基づいて働く

ジョブ型雇用は契約した仕事をこなしさえすればよい完全なる”成果主義”です。したがって、労働者に必要なのは「仕事をこなすスキル」であり、上司にゴマをする・ご機嫌をとるといったスキルは必要ありません。

(”頑張ってる姿を見せる事”よりも”成果を出すためのスキル”が重要になってくる)

また、会社としては成果を出すなら副業しようが転職しようがどんな風に働いても構わないといった関係性になります。

では、理学療法士の「仕事をこなすスキル」「成果」について考えてみましょう。

理学療法士の「仕事をこなすスキル」と「成果」

理学療法士の「成果」”取得単位”であり、診療報酬の上方修正がなければ理学療法士は時間を捧げて働くよりほかありません。

では「仕事をこなすスキル」とはなんなのか。

(ここでいう”スキル”はあくまで”成果”を作り出すためのスキル”であり、ハンドリング技術など理学療法士業界でいう”スキル”とは区別してください。)

理学療法士は「20分:1単位」という法律の中で労働しています。経験を積んだ理学療法士や認定理学療法士でも”取得単位”や”単位単価”の増加はありえません。リハビリで1単位取得するには20分必要という定義は、診療報酬改定でもない限り覆らないのです。

したがって、現在の法律で直接的に生産性を高める「仕事をこなすスキル」はないと言わざるを得ません。

では、理学療法士は一生”時間の奴隷”から解放されないのでしょうか。

そんなことはありません!

理学療法士の業務における「仕事をこなすスキル」リハビリで取得単位以外の部分にあという事です。

その一つが、業務改善・効率化を促進できるITスキルです。

理学療法士として1患者にリハビリを提供する際、リハビリだけで業務は完結しません。

日々の記録、リハビリテーション総合実施計画書、目標設定等支援・管理シート、チーム医療のための書類等、様々な記録・書類業務があります。

例えば、これらを作成する際

  • ブラインドタッチができる人
  • ブラインドタッチができない人

では、作成に必要な時間に差がでます。

また、ExcelでBVAを使用できる人なら自動化さえ可能となります。

そう考えると、理学療法士”+α”のスキルこそが、「仕事をこなすスキル」として評価される可能性が高いと言えます。

理学療法士の視点から「忠誠よりもスキルで評価」というメリットを考えたとき、理学療法士の他に突出した”+α”のスキルを持つ事が重要になってくるでしょう。

転職が自由になる

メンバーシップ型雇用では、会社が仕事するのに必要な人材を「部署異動」という形で確保しますが、ジョブ型雇用では、「新規採用」という形で確保します。

これにより、ジョブ型雇用では会社内で必要なくなった部署は閉鎖(つまり解雇)され、新規立ち上げの仕事については「新規採用」をとるため、雇用の流動性が高まり社会的に転職活動が活発化してくる可能性が高いといえます。

メンバーシップ型雇用のあるある、”安く使い倒されるブラック労働”は減少傾向になると思われます。

理学療法士の業界でも、以前より転職活動は活発化しています。ジョブ型雇用が推進されれば、業界の転職活動もさらに活発化する事でしょう。

しかし、皆さんもご存じの通り理学療法士は飽和状態にあり、就職・転職先の選択肢も減少傾向となっています。

(職場環境や給料に不満を言わなければ、就職できないという事は今のところありませんが、私の病院も含めて給与待遇や定期昇給の下方修正が進んでいる事は間違いありません。)

認定理学療法士の資格を取得することで、他の理学療法士との差別化を図り飽和状態の理学療法士業界を生き抜こうとしている人たちも多くなってきました。

しかし、認定理学療法士は「仕事の選択」のメリットに対してはその効果を発揮できる可能性がありますが、「成果」に対する「報酬」の増加については全く機能しないのが現状です。

さらに、取得する人が増加するほどその希少価値は減少し、資格を持っていない事のデメリットはあっても、資格を持っている事がメリットという認識ではなくなる可能性も十分考えられます。

転職は現状よりも報酬(給料)が高い事が前提になり、ジョブ型雇用による”自由な転職”をメリットにするためには、やはり理学療法士”+α”のスキルが必要となってくることは間違いありません。

ジョブ型雇用のデメリット

ここからは、ジョブ型雇用のデメリットについて理学療法士の立場から考察していきます。「ジョブ型雇用のデメリット」の定義・内容の一部は、Youtubeチャンネル”リベラルアーツ大学”を参考にしています。)

それでは、ジョブ型雇用における3つのデメリットについて見ていきましょう。

個人の事情に関係のない給与

メンバーシップ型雇用は年功序列の給与体系であり、勤続年数が長いほど基本給が上昇していく仕組みになっています。

また、個人の事情に応じて「家族手当」「営業手当」「皆勤手当」等の手当が支給されているところが多いと思います。

しかし、ジョブ型雇用は成果主義のため、勤続年数に応じた定期昇給やこれらの状況に応じた手当なくなってしまいます。

私の職場では基本給に加えて、「資格手当」「通勤手当」「扶養手当」「住宅手当」等が個人の事情によって支給されています。

ジョブ型雇用ではこれらの手当がもらえなくなるため、メンバーシップ型雇用の給与水準を維持するためには今以上の成果を出す必要があります。

理学療法士が作り出す成果(単位)には上限があり、診療報酬も下方修正されているため単位単価も減少しているのが現状です。

もし、現状のままメンバーシップ型雇用の給与額を保つには、時間を切り売りして労働時間を増やすしか手はありません。

認定理学療法士も、診療報酬改定で資格取得による単位単価の上方修正がなければ、資格を持っていても報酬(給与)に直接寄与することは難しいでしょう。

理学療法士”+α”で成果を上げることができるようにならなければ、多くの理学療法士の給与は今以上に減少する可能性が高いと言えます。

事実上の非正規化

ジョブ型雇用では、仕事の成果に対し報酬を支払うため、契約した仕事の成果が伴わなければ、報酬(つまり給与)が支払われない(または減額、降格、解雇)ということになります。

つまり、安定された会社員の身分が保障されなくなります。

理学療法士の成果は単位(20分:1単位)であり、診療報酬に縛られている以上「成果」=「時間」という概念を覆す事はできません。

そのため、患者さんや利用者さんの都合であれ契約した単位取得が困難だった場合は、報酬(給与)が減額する事になります。

患者さんや利用者さんの数とともに取得単位が減少しても、正社員のように「基本給+手当分」毎月保証されなくなります。

社内異動が困難

ジョブ型雇用では、「現在所属する事業部門」が廃止となり「新部門」を立ち上げた際、

  • 「現在所属する事業部門」の職員は”解雇”
  • 「新部門」の職員は”新規採用”

となります。

新部門では、必要なスキルや経歴のある人が採用されるという事です。

また、職員それぞれが個別の明確な仕事内容で雇用契約を結んでいるため、欠員がでた部署に(会社都合で)異動することができません。

私の職場も年に1度(退職者など欠員が出た時はその都度)の部署異動がありますが、これもジョブ型雇用では適用できないことになります。

まとめ

今回は「ジョブ型雇用」についてと理学療法士の立場からそのメリット・デメリットを考察してきました。現状の「メンバーシップ型雇用」がいつまで続くのかは誰にも分かりませんが、どんな雇用型の時代がきても市場から求められる人材になることが重要といえます。

年功序列・終身雇用の崩壊飽和状態にある理学療法士業界だからこそ、新たな分野の知識・スキルの融合を模索し、オンリーワンの理学療法士を目指す必要があると私は考えます。

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