【ADL評価のカットオフ値一覧】主要指標と解釈まとめ

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セラピストの部屋

 ADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)は、食事・排泄・更衣・移動など、生活の基本を支える機能であり、対象者の自立度や介護ニーズを判断するうえで欠かせない評価領域です。

 高齢者や神経疾患の対象者においては、ADLの低下がQOLの悪化や介護負担の増加、退院支援の難航などに直結するため、早期の評価と適切な介入が求められます。
 しかし、学生や若手療法士の中には、「FIMやBIの点数をどう読み解き、臨床判断にどう活かすべきか」に悩む場面も少なくありません。

 そんな時に指針となるのが「カットオフ値」です。

 カットオフ値は、ADL評価において「自立/要介助」「退院可能/施設入所」などを判定するための基準であり、介入方針や支援計画の立案に役立つ臨床的な判断材料となります。
 ただし、評価法や疾患、施設の方針によって基準値は異なるため、すべてを記憶しておくのは困難です。

 そこで本記事では、臨床現場で使用頻度の高いADL評価のカットオフ値を、文献とともに一覧で整理しました。
 教育・臨床・退院支援の場面で、ぜひご活用ください。

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カットオフ値とは?

 カットオフ値とは、ある評価指標において「リスクあり/なし」「正常/異常」などを判定するための基準値です。
 臨床現場では、対象者の状態を定量的に把握し、介入の必要性や方針を判断する際の重要な指標となります。

うっしー
うっしー

 カットオフ値は、判断材料として優れた基準値ですが、「絶対的な基準」ではなく「参考値」であることに注意しましょう。

ゆー
ゆー

 疾患・年齢・文化的背景による変動や、評価するときの椅子の高さなど、評価手技のばらつきがあることも念頭に置く必要があります。

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FIM(機能的自立度評価法)

 FIM(機能的自立度評価法)は介助量の定量化に優れ、多職種連携や退院支援カンファレンスでの共通言語として活用されます。ADL全体の自立度を評価するスケールであるため、カットオフ値は「退院予測」「介護度判定」「転帰予測」などで活用されています。

 FIMのカットオフ値は、脳卒中患者では「FIM総得点91点以上」が在宅復帰の目安とされることが多いです。

ゆー
ゆー

 FIMは「しているADL」の評価です。
 日内変動がある場合は最低点を採用するのが原則です。

  対 象  カットオフ値  解 釈  
脳卒中患者
(急性期)
80点以上自宅退院の可能性が高い
脳卒中患者
(回復期)
91点以上自宅と施設を分ける指標
回復期リハ病棟での運動FIM利得の中央値17点以上臨床的に意味のある改善(MCID)

📚 参考文献

  • Toi K, Ishiyama D, Aoyagi Y, et al.
    The cutoff values of functional independence measure scores for predicting discharge destination in the early stroke phase.
    Int J Rehabil Res. 2024;47(3):185–191.
    DOI: 10.1097/MRR.0000000000000636
  • Shirahama K, Fudano Y, Imai K, et al.
    The role of the functional independence measure score in predicting the home discharge of inpatients with cerebrovascular diseases in convalescent rehabilitation wards.
    J Phys Ther Sci. 2020;32(6):385–390.
    J-STAGE PDF(全文)
  • Tokunaga M, Sannomiya K, Nakashima Y, et al.
    FIM利得および退院時FIMの予測式
    ―入院時FIM、年齢、認知機能および転院時期で層別化した場合のFIM利得中央値を使った手法―
    Jpn J Compr Rehabil Sci. 2015;6:13–20.
    SQUARE PDF(全文)

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BI(Barthel Index)

 BI(Barthel Index)は、ADL自立度を簡便に評価できるスケールとして広く用いられており、退院予測介護度判定におけるカットオフ値が複数報告されています。
 BIのカットオフ値は、脳卒中患者で「60点以上が在宅復帰の目安」とされることが多いです。

うっしー
うっしー

 BIは「できるADL」の評価です。
 BIは、天井効果(軽度障害の検出が難しい)があるため、回復期や軽症例ではFIMとの併用が推奨されます。

  対 象  カットオフ値  解 釈  
脳卒中患者60点以上自宅退院の可能性が高い
脳卒中患者60点未満施設退院や介護支援が必要な可能性
一般高齢者85点以上軽度障害・ほぼ自立

📚 参考文献

  • Shah S, Vanclay F, Cooper B.
    Improving the sensitivity of the Barthel Index for stroke rehabilitation.
    J Clin Epidemiol.
    1989;42(8):703–709.
    PDF(Sci-Hub経由)
  • Mahoney FI, Barthel DW.
    Functional evaluation: the Barthel Index.
    Md State Med J. 1965;14:61–65.
    SpringerLink解説

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まとめ

 ADL評価は、対象者の自立度や介護ニーズを定量的に把握するための重要な手段です。
 本記事では、FIM・BIを中心に、退院予測・介護度判定・介入方針の決定に役立つカットオフ値を文献ベースで整理しました。

 カットオフ値は、臨床判断を助ける有用な指標ですが、「絶対的な診断基準」ではなく「参考値」であることを常に意識することが重要です。
 疾患・年齢・文化的背景・評価手技の違いによって数値は変動するため、他の評価法との併用や臨床所見との統合的判断が求められます。

 各評価のカットオフ値シリーズを通して、教育・臨床・退院支援の現場で役立つ実践的な知識の体系化を目指しています。

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