はじめに
医療・介護の現場では、本人や家族に嘔吐・下痢・発熱などの症状が出た場合、感染対策の指示で出勤停止というルールがよくあります。
実際に私の働く病院でも、嘔吐や下痢があると症状消失から一定時間経過するまで出勤停止というルールがあります。
しかし、いざ自宅待機になると必ず浮かぶ疑問があります。

- この休みって有休になるの?
- 無給になるのは避けたい
- 休業手当ってもらえるの?
- 法律ではどう扱われるの?
実は、「感染症の疑い」だけでは法令による就業禁止にはなりません。
つまり、病院が独自に定めたルールによる出勤停止であることが多く、給与の扱いは「病院側の都合による休業」になる可能性が高いのです。
この記事では、医療現場でよくある「感染対策による出勤停止」のケースを例に、有休・休業手当・病欠・無給の違いをわかりやすく整理します。
あなたが損をしないために、ぜひ最後まで読んでみてください。
「感染対策による出勤停止」は“法令”か“病院独自のルール”か

まず最初に整理したいのは、「法令による就業禁止」と「病院独自のルールによる出勤停止」は全く別物という点です。
法令による就業禁止
感染症法や労働安全衛生法で定められた感染症(1〜3類など)は、医師の診断や保健所の指示により就業が禁止されます。
この場合は、出勤停止に伴う病院側の給与支払い義務はありません。
法令による就業禁止は「診断」が前提
感染症法・労働安全衛生法ともに、就業制限がかかるのは以下のときです。
- 医師が診断した
- 保健所が就業制限を命じた
- 法令で明確に「この感染症は就業禁止」と定められている
つまり、症状が似ているだけでは法令は動かない。「嘔吐=ノロウイルスの可能性」であっても、“疑い”の段階では法令による就業禁止には該当しない。
医療機関も例外ではない
医療機関は感染リスクが高い職場ですが、法令が特別に「疑いの段階で就業禁止にできる」と認めているわけではありません。
医療機関に対して特別に適用される法律は「医療法」「感染症法」「労働安全衛生法」「医療機関向けガイドライン(厚労省)」ですが、これらのどれにも、「疑いの段階で法的に就業禁止にできる」という規定はありません。
1~5類感染症の分類表(感染法)
分類表(代表的な疾患を抜粋)
| 類型 | 定義(要点) | 代表的な疾患 |
|---|---|---|
| 1類感染症 | 感染力・重篤性が極めて高い | エボラ出血熱 クリミア・コンゴ出血熱 痘そう 南米出血熱 ペスト マールブルグ病 ラッサ熱 |
| 2類感染症 | 感染力・重篤性が高い | 結核 急性灰白髄炎(ポリオ) ジフテリア SARS MERS 鳥インフルエンザ(H5N1/H7N9) |
| 3類感染症 | 特定職業で集団発生の恐れ | コレラ 細菌性赤痢 腸管出血性大腸菌感染症(O157等) 腸チフス パラチフス |
| 4類感染症 | 動物・飲食物等を介して感染 | ノロウィルス A型肝炎 E型肝炎 レジオネラ症 デング熱 マラリア 日本脳炎 黄熱 SFTS 狂犬病 など |
| 5類感染症 (全数把握) | 発生動向調査が必要 | 麻しん 風しん 侵襲性髄膜炎菌感染症 HIV 梅毒 B型肝炎・C型肝炎 など |
| 5類感染症 (定点把握) | 特定医療機関からの届出 | 新型コロナウイルス感染症 季節性インフルエンザ |
📚 参考文献(検索結果)
・厚生労働省「類型から探す(感染症法)」
・京都市「感染症法における分類一覧(令和5年5月8日改正)」
・八王子市「感染症法上の分類について」
病院独自のルールによる出勤停止
一方、ノロウイルスや胃腸炎など、医療現場でよくある症状は、法令による就業禁止の対象ではありません。
嘔吐・下痢などの症状があっても、「疑い」の段階では法令は動きません。
つまり、病院が独自に定めた感染対策のルールで出勤停止を命じているだけという扱いになります。
病院はどうして“疑いの段階で出勤停止”を命じるのか?
理由はシンプルで、病院のリスク管理(安全配慮義務)として独自に定めているから。
医療機関は患者への感染リスクを避けるため、症状が軽くても「念のため出勤停止」を指示することがあります。
しかし、これはあくまで 病院側の判断 であり、法令による強制ではないという点が重要です。
「法令」と「病院独自のルール」で何が変わる?

結論はシンプルです。
ココを理解しておくと、給与の扱いで損をすることがなくなります。
- 法令による就業禁止
- 病院側に給与支払いの義務なし
- 傷病手当金の対象になることもある
- 病院独自のルールによる出勤停止
- 病院側の都合による休業
→ 休業手当(平均賃金60%以上)が必要 - 有休は本人が希望した場合のみ使用可能
- 無給扱いは原則不可
- 病院側の都合による休業
「法令」ではない場合、給与の扱いが変わる
病院独自のルールで出勤停止を命じた場合、労働基準法26条が適用されます。
使用者の責に帰すべき事由による休業は、休業手当(平均賃金の60%以上)を支払う義務があります。
つまり、
・法令による就業禁止 → 給与支払い義務なし
・病院独自のルール → 休業手当が必要
という明確な違いが生まれます。
医療機関でも「疑い」で無給にするのは基本的に不可
医療機関は感染リスクが高いからといって、法令を拡大解釈して「疑いの段階で無給扱い」はできません。
病院側が出勤停止を命じた以上、病院側の都合による休業という扱いになります。
自宅待機になったときの休みの扱い4パターン

実際に起こりやすい4つのパターンを整理しました。
- 有給休暇(本人が希望した場合のみ)
- 本人が「有休を使いたい」と申し出た場合のみ成立。
- 病院側が強制することはできない。
- 無給扱い(原則不可)
- 病院側の都合で出勤停止にしている以上、無給扱いは労働基準法26条に抵触する可能性が高い。
- 休業手当(平均賃金の60%以上)
- 病院独自のルールで出勤停止を命じた場合、最も法的に正しい扱い。
- 病欠(傷病手当金)
- 本人が労務不能であることが前提。
- 「症状は改善しているが、病院側のルールで出勤停止」というケースでは適用されないことが多い。
【よくある誤解】
「感染症だから無給で仕方ない」→ ❌ 法令ではない
「病院が決めたルールだから従うしかない」→ ❌ 給与は別問題
「有休を使うように言われた」→ ❌ 強制は違法
【実例】嘔吐により2日間出勤停止になったケース

ここでは、実例をもとに給与保証と休みの扱いについて解説していきます。
- 休み1日目深夜に嘔気・嘔吐
- 起床時 胃部不快感、軽度の倦怠感
- 嘔気・嘔吐、発熱など他症状はなし。
- 症状と経過、当日の休暇希望を上司へ伝達。
- 感染対策の規則に従い、自宅療養の指示。
- (1日目は日曜日であったため、翌日に感染対策の責任者へ確認し、その後の対応について連絡するとの指示。)
- 昼以降、症状なく常食摂取
- 感染対策に「受診する」という規則があったが、日曜のため受診できず。
- 休み2日目昨日からの経過を上司へ報告
- 感染対策の規則にある「病院側として受診の指示」を確認。
- 症状が改善している状態では、診断は難しいため体調に変化がなければ受診の必要はなし。
- 感染対策の規則にある「病院側として受診の指示」を確認。
- 感染対策の責任者より出勤可能の連絡
- 翌日より通常勤務に復帰。

今回のケースにおけるポイントと給与保証・休日の扱いについては以下のように解釈できます。
- 深夜に嘔吐したが、翌日には症状が改善
- 深夜に嘔吐
- 翌日昼には食事も通常
- 倦怠感もほぼ改善
- 法令に該当する「医師の診断」がない
- 労務提供は可能
- 感染対策の規則に従い、2日間の出勤停止を指示
- これは法令ではなく、病院独自のルールに該当
- この場合の休みの扱い
- 1日日:本人が「休みたい」と申し出た
→ 有休 - 2日目:病院側の指示で出勤停止
→ 休業手当(平均賃金の60%以上)が妥当
- 1日日:本人が「休みたい」と申し出た
就業規則で確認すべきポイント

病院によって規定が異なるため、就業規則を必ず確認しましょう。
- 感染症に関する出勤停止の規定
- 出勤停止時の給与の扱い
- 有休の扱い(強制されていないか)
- 休業手当の記載の有無
特に「感染症の疑いで出勤停止」の扱いは、就業規則に明記されていないことも多いため注意が必要です。
上司・事務への伝え方テンプレート

もし、感染対策の規則により出勤停止となった際、上司や事務に相談する時はなるべく角を立てず、法的に正しい方向へ誘導する言い方を検討しましょう。
今回の自宅待機は、私自身は労務可能な状態であり、 病院側の感染対策ルールによる出勤停止と理解しています。そのため、労働基準法26条に基づく休業手当の対象か、 あるいは病院の規定に基づく補償の扱いになるのか、ご確認いただけますでしょうか。
有休を使用する場合は、私の希望として申請する形であれば可能です。
お忙しいところ申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
まとめ
感染対策による出勤停止は、医療現場では日常的に起こるものですが、その扱いを誤解しているケースは少なくありません。
嘔吐や下痢などの症状があっても、疑いの段階では法令による就業禁止には該当せず、インフルエンザやコロナ、ノロウイルスも同様に法的な出勤停止の対象ではありません。
つまり、これらの症状による自宅待機は、病院が独自に定めた感染対策ルールによるものであり、法令による強制ではないという点が重要です。
そのため、病院側の判断で出勤停止を命じた場合は、労働基準法26条に基づき、病院側の都合による休業として扱われます。
給与は休業手当(平均賃金の60%以上)の対象となり、有休は本人が希望した場合にのみ使用できます。
無給扱いは原則として認められず、傷病手当金も「本人が労務不能であること」が前提となるため、症状が改善しているのに病院側のルールで休むケースでは適用されにくいのが実情です。
感染対策は大切ですが、従業員の権利が不当に損なわれる必要はありません。正しい知識を持って、安心して働ける環境を整えていきましょう。



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